逢魔の扉を前にして 〜収録談話 その3


    3



何故、加茂張里などという大御所が、
縁者であろう芥川の方ではなく中島敦へこそ
いやに親しげにざっかけない態度で接していたのかと言えば、
彼もまた『逢魔の扉』に出演していたからだそうで。
術師たちの総大将クラス、大幹部として同じ場面で撮影した機会が多く、
その折に屈託ない敦くんにほだされる格好で、なんとLNE交換までしたという。

 『何やってんだ、大叔父さん。』
 『ええやないか。かわいー大甥っ子は ちーとも仲良うしてくれへんよってなぁ。』
 『〜〜〜〜〜。』

年齢には不相応なほどに落ち着き払った芥川くんに、おいおいとじっとり睨まれるほど、
実は結構お茶目な大御所だったりする。笑
とはいえ、なかなか忙しいお人ゆえ、こうまで間がよく現れるのは不自然な話でもあって、
実を云やこの邂逅も立派な“お膳立て”によるもの。
誰かさんの企てによるものらしいのだが、今は種明かしもさておいて。
そんな仕立てだなんて知りもしないで
それはにっこにこで思わぬ再会を喜んでいる少年へ、
そちら様からもウソ偽りない満面の笑顔を振り向けておいでの張里さん。

 「お正月に2時間ドラマ観ました。剣劇がかっこよくってvv」
 「そうなん? 観てくれたんか、嬉しなぁ。」

あくまでも自身の孫だか甥っ子だかのお友達扱いながら、
それでも若い子との会話には慣れておいでか、数分ほどの世間話を交わしてから。
ええ子やなぁ、身体には気ぃ付けや、ほなまたなぁと、
少年たちへの一通りのご挨拶を終え、
誰かさんへ向けての仕上げの一瞥をそれは絵になる所作にてびしりと決めた大御所様が
お付きの人らと立ち去るのと入れ違うように、

「よう、敦。」
「あ、中也さん。太宰さんも。」

左腕を吊っている身、コートも片袖は通さずに羽織るのを、
ほら貸しなさいと、芥川さんに恐れ多くも手伝ってもらっておれば、
新たな訪問者らが声を掛けてくる。
新人の中島少年にとって、芥川に並ぶドラマ上の“兄たち”で、
彼らはスケジュール通りの撮影があったらしく、現場の方からのお越しな模様。
系列ビルであるせいか、何かしらの連絡が社員の間で飛び交いでもしたものか、
予兆もなくのいきなりな登場にもかかわらず、
一目見たさの野次馬が多数集まっているようで。
閑散としていたビル内のはずが判りやすくもさわさわと華やいでいる気配。
まま、この程度の賑わいはまだ大人しいもの、
さすがにそこはわきまえもあるものか、
そばまで寄って来て写真を撮ったり、まとわりつくよな真似をする社員もいなさそうで。
そういう空気を読んでおいでのお二人さん、
微妙な苦笑こそ浮かべたが、それは自然体にて弟たちへと合流し、

「そういや、このおちびさんに支えられたんだってね、敦くん。」
「んだとぉ?」

太宰がまずはの嫌がらせかそんな物言いをし、
それへ中也がその言いようは何だと反応良く噛みつくのもいつものこと。
寄ると触るとごちゃごちゃと諍いを立ち上げている困った先輩さんたちで、
見栄えがすこぶるつきにいいだけに
そんなお二人が一緒にいることへの攪乱か何かなのかなぁ?と
芥川へこっそり訊いたことがあった敦だが、
攪乱にも牽制にもなっとらんと思うぞと、やはり小首をかしげられたのは記憶に新しい。

「そもそも手前がデカすぎんだよ。」
「え〜、そんなことはないよぉ。」

まあ確かに、日本人男性の平均身長より高い目の太宰なので、
そんな彼と並ぶとやや控えめな高さなのが歴然とし、かなり悲惨なことにもなろう。
こんな具合に小柄なことをよくいじられている中也であるものの、
見栄えの華やかな麗しさは下手な女優も裸足で逃げ出すレベルの彼で。
やや勝気そうな凛々しい面差しは、
撥ねた髪の先が触れそうで触れてないすべらかな頬に、
真夏の空を凝縮したような青い双眸と表情豊かで凄艶な口許と、
綺麗なのに精悍でもある、揺るぎなき自負をひそめた笑顔もしたたかで。
着やせするのかガチムキな体躯は目立たせぬままに、
そちらは隠さぬ綺羅らかな美貌と意外に品のいい所作と来て、
海外メディアにも受けが良く。
そこへと加えてどんな無茶なアクションでもけろりとこなせるものだから、
何なら女優のスタンドインも数々と請け負っていたりして。
直近まで自分でこなしているとされていた鮮やかな格闘やアクション、
結婚引退を機に、実は日本人のナカハラのおかげと暴露した著名女優の告白記事により、
海の向こうで大騒ぎになったのもまたまた記憶に新しい。
そんな素敵な兄様がからかわれるのをただ見ているわけにもいかないか、

 「そういう言い方はよしてくださいよぉ。」

どちらかといや一番直接的に付き合いがあるのは中也なものだから、
敦が何とか援護に回る。

「中也さん、体幹が強いんですよ。腹筋なんて8つに割れてるし。」
「…普通は6つじゃないの?」

スーツアクター志望の敦にとってはアクションの先達だし憧れの人。
抱え込むたびに良い匂いがすると小動物みたいに懐いてくれている敦のことを、
中也の側でもそれはそれは可愛がっており、

 『俺より身長あるくせになんでこんな軽いんだ、お前は。』

会うといつも焼き肉だ何だとご馳走してくれる。
今回もセットから転げ落ちそうになったのをがっしと掴み締めて引き留めたものの、
反動がついてたら逆方向へ吹っ飛ばしていたかもと、
改めて軽いなぁと実感したほどだったそうで。

 “何ならそこいらの女優より軽かったなぁ。”

それ以上はストップですよ、中原さん。笑
そんなこんなと仲睦まじいならではのごちゃごちゃした会話が盛り上がっていたものの、

「CCTVのチーフディレクターさんですよね?」

確かドラマのセットとか担当していますよねと、
ご本人こそがこの場の背景になりかかって行き場を決めかねていた人物へ、
それは紳士的な笑顔で話しかけたのは、
並み居る美人女優達との共演をこなし、そのたびごとに熱愛かなんて覚えのない報道をされているという
当代随一の美男子俳優、太宰治という御仁。
ただ外見がイケメンだというだけじゃあなく、
様々な職業に就く主役を数々演じるものだから、そのどれへも知識豊富で。
何でもまずは基礎を学ぶという勉強家でもあるらしく、
パテシィエから車の整備工、外科医にペットトリマーにスポーツインストラクターまでと
演じてきた役の数だけ様々な資格や免許もお持ち。
医師免許は医大に通うのが大前提なので論外として、

 『さすがに司法試験と気象予報士はなかなか合格しなくてねぇ。』
 『それって東大の合格率より難関って言われてませんか?』

どこまでジョークか…といった、まあそれはさておくとして。
最近よく対比として挙げられている中也が
海外でも持て囃されるほどの鋭角的で豪奢な印象の強い風貌なのとは対照的、
桜や百合のように嫋やかなと評される、
淑とした端麗さをまとう瑞々しい美貌をやんわりとほころばせ、
それほど面識もない相手へ、まずは穏やかに声を掛けた長身の長兄術師殿。

 「追って局の方からの通達もあるとは思いますが、」

セールスの研修のお手本のような、
いかにも人畜無害の安全な人でございという笑顔を
自然なそれとして見せておいでのそのまんま、
ほんの少しほど上体を前へと傾けた所作に添うて、

 「まだまだ業界に関しては右も左も判らない身の敦くんへ、
  これ以上の接触や手出しはご遠慮願えますか?」

口説は丁寧、声も穏やか。
ただ、思いがけない間合いで降ってきたそれ、
腹の底を見透かされたような直接の言い回しだったのへ、

  え?え?と

下心があればこそでギョッとした藻部田が
何をか確かめたいかのように、
そんな囁きを発した、間近になってた相手のお顔を反射的に振り仰げば、

  深色の双眸がまじろぎもせずの真っ直ぐに、
  それは冴えた鋭さもて見下ろしてきておいでで。

表情豊かなと評されているはずな目許が、今は生気のない虚洞のように凍てついていて。
だがだがその奥底から滲み出している何かがあって。
何なら“殺気”というものはこういう気色を言うものかと感じたほどに、
冷徹さや無慈悲を孕んだ、強い強い意志を帯びた眼差しで。

 「………ひっ!」

年齢でいけば一回りは違おう、自分よりずんと若い青年。
若々しく麗しい風貌した、とはいえ肩書としては俳優でしかないはずの人物が、
何でどうしてこんな…修羅場を幾つも乗り越えて来たような、
命のやり取りでもしてきたような、鋭くも重々しい気迫をたたえた貌になるものか。

 「…どうかしましたか?」

周囲に居合わせた他の誰も気づいてもないものか。
案じるような声を掛けられ、ハッとし、恐る恐る見直せば、
先程の凶器のように尖りまくっていた殺気はどこへやら、
キョトンとした穏やかそうな風貌がこちらを見やって来るばかりであり。
気が付けば、唐突に悲鳴じみた声を上げたせいだろう、
居合わせた全員が自分をこそ何だ何だと見やっている状況で。

 「…いやいやいや、あのそのっ、すいませんです。」

何が起きたか、わけが判らず、
ただ…このままここにいても事態も立場も好転はすまいと、
そこだけははっきりしていると感じた見切りの良さだけは誉めてやろうと、
あたふた駆け出した某チーフディレクター氏を
引き留めることもなく、ただただ見送った面々だったようでございます。





 
to be continued.

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 *何だかグダグダな展開になっちゃいましたかね。
  ほら、頭使う展開よりもドカバキ展開の方がお得意なもーりんさんだし。(おい)
  太宰さんのおっかなさは
  このままマフィアに迎えられても通用すんじゃなかろかという肝の座りようだと思われます。
  飄々としていつつ、そんな恐ろしい中身している伊達男。
  どんな“現代の怪談”なんだかですね。

 *14日、ちょっと改訂。
  勢いに任せて書きなぐり過ぎてましたので…。